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元刑事が実践した

対人捜査・身体知・遵法教育

事件現場から支援現場へ臨んだ11年と9年の記録

· 元刑事,実践,対人捜査,身体知,遵法教育

こんにちは!

榎本澄雄です。

7月21日、日曜日。

今日は、満月ですね。

明日は大暑、8月7日は立秋です。

夏の土用、体調など崩されていませんか?

今日は、

2022年に寄稿した記事を紹介します。

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2021年10月10日

私の母校・早稲田大学で

パネルディスカッションに参加しました。

元刑事が体験した「対人捜査と身体知」

警察11年から教育9年へ

https://www.kibiinc.co/blog/2021-9-30

日本ソマティック心理学協会の記念大会でした。

日本ソマティック心理学協会 第8回記念大会2021

大会テーマ:こえて、つながる「ソーマ」(身と心)

https://www.somaticworld.org/8th-conference2021/​

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ソマティック・エデュケーション

2021早稲田大会お礼

https://www.kibiinc.co/blog/2021-10-1

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終了後、

機関誌に寄稿しました。

VOSS

2021-2022 Vol.8

こえて、つながる「ソーマ」(身と心)

Voice of Somatics & Somatic Psychology

http://www1.ttcn.ne.jp/suikousha/public_v08.html

当時の記事を紹介します。

VOSS

2021-2022 Vol.8

こえて、つながる「ソーマ」(身と心)

大会&ソマティック・ウィーク 分科会報告

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元刑事が実践した

対人捜査・身体知・遵法教育

事件現場から支援現場へ臨んだ11年と9年の記録

株式会社 kibi 代表取締役・元警視庁警部補 榎本 澄雄

こんにちは。榎本澄雄と申します。

2021年10月10日、第8回記念大会にパネリストとして参加しました。今回はソマティック・エデュケーション部門「身体知の実践」分科会で私がお話しした内容を中心に、当日はお伝えしきれなかった内容を合わせてお届けします。

私以外のパネリストは射手矢岬先生(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)、望月泰博先生(理化学研究所脳神経科学研究センター研究員、早稲田大学非常勤講師)。座長は長谷川智先生(山伏、一橋大学非常勤講師/協会運営委員)でした。

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1 東洋医学の人間科学

子どもの頃から東洋医学、漢方や鍼灸、経絡に関心がありました。高校生の頃、『月刊 秘伝』という武術雑誌を読み、古流武術に関心を持ちました。進路として鍼灸専門学校へ進学したいと思ったのですが、周囲の賛成が得られず、スポーツ系の大学を探しました。

早稲田大学人間科学部にスポーツ科学科があり、SONY創業者・井深大さんからの寄附講座「東洋医学の人間科学」があったので、受験し、進学しました。大学生になり「東洋医学の人間科学」を受講しました。私の記憶では当時のコーディネーターが春木豊先生で、土曜日にヨガ、鍼灸、漢方、気功などの授業があったと思います。

1996年に中国の北京大学へ1年間、語学留学しました。中国で気付いたことは、外国語の習得よりも非言語や身体を使ったコミュニケーションが非常に有効ということでした。中国語があまり上手ではない留学生が、彼らの得意なサッカーやダンスを通じて、男女問わず仲間と打ち解けていたのを目の当たりにしました。その頃から、武術ではなく、ダンスに夢中になりました。20歳の頃です。帰国後、卒業論文では剣術の素振りをスティック・ピクチャで解析しました。

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2 対人捜査と身体知の11年

研究者志望だったので、大学院にも進学しましたが、修士課程1年を終えて退学しました。大学院を中退後、2年ほどフリーターをしながらダンスを続けていたのですが、生活が苦しかったので、採用試験を受けて2002年、警察官になりました。

警察官になって初めて、犯罪捜査とは身体知そのものだと知りました。テレビで「警察24時」のような番組を見たことがあるでしょうか。事実、自動車警ら隊の警察官はその眼力、話術に神憑り的なものがあります。私も制服警察官だったときは、何とか職務質問で実績をあげたくて、部内資料で検挙情報や着眼点を研究し、職質が上手い先輩たちとなるべく交流して、その技術を身体に沁み込ませるよう努めました。

刑事になってから、被疑者はクライアントと考えるようになりました。対峙する相手と波長、周波数のチャンネルを合わせていくように努めていました。具体的には、非言語情報を手掛かりにしました。特に職務質問では、こちらが投げ掛けた質問に対して、相手の言語的な答えは半ば聞き流して、どのような非言語の反応があったのかに注目します。表情、眼球、しぐさ、手先、足先や声のトーン、間を観察します。人は他人から理解されたいと思っているので、常に情報を発信し続けているとも言えます。警察官が人の外見、行動、素行や衣服、所持品の細部、裏側、内側まで観察するのは、そのためです。

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2009年から2011年、アスペルガー障害の成人男性による名誉毀損事件を告訴受理、捜査しました。被害者は、発達障害に関する書籍の出版社(花風社)でした。10年、インターネット上で誹謗中傷され、業務妨害されているとのことでした。事件を受理した当時、発達障害のことはほとんど知りませんでした。専門家への事情聴取、専門書の読み込み、裏付け捜査、被疑者や参考人の取り調べなどを通じて、徐々に専門的な知識や体験を蓄積しました。被疑者は起訴され、執行猶予付きの罰金刑を科されました。

この事件を通じて、私は自閉症と「心の理論」の関係を知りました。「心の理論」を持っている状態とは、自分がどのように世界を見ているかと言う自己の視点だけでなく、相手がどのように世界を見ているかと言う他者の視点を持つことだと私は理解しています。「心の理論」に障害がある状態は、他者の心情や考えを推察し行動を予測する能力に欠け、対人関係や社会的な振る舞いに困難を生ずると言われます。近年では模倣活動、ミラーニューロン機能が他者の感情を理解する上で重要との研究もあるようです。

アクティブ・リスニング・スキル(積極的聴取技術)と呼ばれる人質立てこもり事件説得交渉術があります。凶悪犯人が人質を解放し、投降するまでの心理・行動変化には段階があり、私はそれを「5つの関門」と呼んでいます。興奮の沈静化、感情の理解、信頼関係の醸成、影響力の行使を経て、最終的に行動の変化へと至ります。最も重要視されていることは相手の視点を持つことです。

注意が必要なことは、感情の理解は同意や同情ではないことです。優れた刑事は犯罪者の領域(ダークサイド)に橋を掛けることで、情報収集し、取調べ、説得交渉します。警察には、ダークサイドに橋を掛けても、決して向こう岸へ渡ってはならないというルールがあります。ダークサイドに行ったきり、こちらの世界へ帰って来られなくなる危険があるからです。

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3 身体知と遵法教育の9年間

2013年に警視庁を辞職しました。自分がどんな仕事をすれば良いのかよくわかりませんでした。とりあえず、深夜のコンビニや飲食店でアルバイトをしました。大学生の時に家庭教師や塾の講師をしていたことを思い出し、講師として働きはじめました。

2017年春、練馬区立光が丘第八小学校の特別支援学級で支援員を半年間やりました。横浜にある放課後等デイサービスでも1年ほど非常勤の職員をやりました。2017年夏、その放課後等デイサービスにて重度自閉症で特別支援学校に通う小学二年生の男の子と約20日間、過ごしました。

身体知と遵法教育を繋ぐ本当に得難い体験でした。

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当時、その男の子はおむつをして、洗面台で何時間も水遊びに耽り、他人に関心がなく、他人と目が合わず、会話が成立しない状態でした。普段はとてもおとなしいが、納得できないことがあると支援者の腕に噛み付き、その力は噛まれた腕の歯形から血が滲み出るほどでした。身体的にはとても活発なお子さんでした。私は頭を抱えました。

自閉症児の支援経験が、まだほとんどなかった私は、藁にもすがる思いで、私がかつて事件を担当した花風社の書籍を読み漁りました。その中で、自閉症のお子さんに言語ではなく、身体的なアプローチをすることで、身体を育てることに賭けました。当時、特に助けになったのは、栗本啓司先生が書かれた『芋づる式に治そう! 発達凸凹の人が今日からできること』でした。

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栗本先生によると、自閉症児の彼がおむつをして、洗面台で何時間も水遊びに耽るのは、水の収支が合っていないことが原因でした。彼は腎臓が未発達で、汗をかき、おしっこから水分を排泄することと、水分を吸収するバランスが合っていなかったのです。また、言葉が上手くないのでお水を飲みたいという自己主張も上手くできなかったようです。

当初の支援環境では、彼は自分でトイレに行けないので、敢えてお水をあまり飲ませないようにしていたようです。お水を飲んでも、おむつがおしっこで一杯になるだけから、おむつ交換の手間が増えて面倒だと思われたのかもしれません。しかし真実はこうです。

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彼は自分でお水を飲むことができないから、わざわざ洗面所に水を張って、何時間も水遊びすることで、皮膚から水分を吸収していたのです。

そこで、まず私がやったことは、彼が水遊びしている間に背後から彼の腎臓付近を両手で温めて、腎臓の発達を促してあげることでした。

次に、コップに水を入れて、なるべくお水を飲ませてあげるようにしました。もちろん、その分、水分が排泄されることになるので、おむつ交換の手間は増えました。

また栗本先生によると、夏は排泄・循環と水収支をよくするチャンスの季節で、脚を動かす運動をいっぱいするといいとのことでした。幸い彼は運動が好きなので、室内でしたが朝から夕方まで一緒にたくさん遊びました。彼は父親不在の家庭で育ち、お母さんがパートをしながら一人で子育てしていました。

初めのうちは、おんぶや抱っこ、高い高いをしていました。笑って、とても喜んでいました。そのうち、彼は回転や逆立ちが得意だとわかりました。自閉症児に比較的よく見られる特徴を持ち、たくさん回転しても目が回らないお子さんでした。

私は学生時代からストリートダンスをやっていたので、彼の身体を補助して、社交ダンスやフィギュアスケートのように高速回転させてあげたり、手押し車や倒立をしたり、ブレイクダンスのバックスピン(床に寝て、背中で回転する)をやらせてあげました。一方で、私の動作やダンスを見せても、彼が模倣することはありませんでした。

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運動で身体を発達させて、さらに汗をかくことで、水遊び・おむつ問題へ繋がる水の収支を改善させることが私の狙いでした。彼はたくさん汗をかきました。もちろん、お水もたくさん飲みました。私も午前中でTシャツ1枚がびしょびしょになり、午後でTシャツ1枚がびしょびしょになるので、着替えのTシャツを複数枚用意したほどでした。私も必死だったのです。

夏が終わりに近づきました。気づくと彼は水遊びを一切しなくなりました。きちんと汗がかけるようになり、コップでお水を飲んでいるので、水遊びがいらなくなったのです。

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トイレにも自分で行くようになりました。当時の彼はまだ自分の尿意とおしっこが出るタイミングを把握できていなかったのですが、トイレの中で30分ほど待ってあげると、おむつではなく、トイレでおしっこが出来るようになりました。その後、施設の職員さんから伝え聞いたところによると、おむつが取れたそうです。

さらに、他人に全く関心なかった彼が、私の動作やダンスをときどき模倣するようになりました。

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最も驚いたのは、言語能力でした。ある日の午後、彼が学習室から絵カードを持って来ました。廊下に私を引っ張り出して、食材や料理が描かれた絵カードを座布団の上に置きながら、「カレー」とか「大根」とか「ぎょうざ」とか、私に対して一枚ずつ示して、勝手に喋り始めたのです。私自身は絵カードがどのお部屋にあったのかも知りませんでした。言葉による交流は半ば諦めていましたから。おそらく他の職員さんが彼に言葉を教えようとして、絵カードを使っていたのでしょう。

言語能力が発達して、他人に関心をもち、会話が成立するようになりました。嫌なことがあっても、以前のように支援者の腕に噛み付くことはなくなりました。言葉で自己主張できるようになったからです。

おむつ・水遊び問題が解決し、模倣が始まり、言語能力が向上し、噛み付きという他害行為がなくなり、発達段階が一つ進んで社会性が生まれました。すると今度は、面白いことが起こりました。

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人の好き嫌いが始まったのです。以前の彼には、お母さんかお母さん以外かくらいの区別しか見られませんでした。ところが、ある時から明確に嫌いな子が出来ました。そのお子さんはとても元気で、声や動作が大きく、少々賑やかでした。彼とその苦手なお子さんが同じ部屋にいると、彼は「バイバイ」と言ってその子に鞄を押し付けて部屋から出て行ってもらおうとし、あるいは自分が部屋から出てしまい、絶対に同じ空間にいようとしなくなりました。他の支援員さんもこれには参っていましたが、私は自傷・他害・パニック以外には寛容なので、人の好き嫌い問題はちょっとした笑い話程度にしか思えませんでした。

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夏が過ぎ、彼とはしばしの別れでした。問題行動はほとんど治ったので、私がひと夏、つきっきりで支援したような方法でなくてもOKになりました。支援員さんが他のお子さんたちと一緒にケアする方法で充分になったのです。

秋が来て、冬が来て、彼と再会した時、彼は他のお子さんたちと普通に遊んでいました。何物にも変え難い、本当に貴重な経験でした。

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実は、彼ほど重度ではなく、支援者の手があまり掛からなくて、水遊びが大好きな自閉症のお子さんが、もう一人いました。そちらのお子さんは、秋が来て、冬が来ても、変わらず洗面所で水遊びに耽っていました。そのお子さんは身体の緊張がとても強く、背中、特に肩甲骨付近の筋肉の強張りは非常に固い状態でした。私は他のお子さんをケアできなかったことを申し訳なく思いました。

もう一つエピソードを紹介します。あの夏の支援経験を通して、私が忘れられない光景は彼のガッツポーズでした。私が彼をフィギュアスケート選手のように高速で回転させてあげ、バックスピンをさせてあげると、彼は室内を走って、大きく「うぉー!」と雄叫びをあげながらガッツポーズしていました。きっと彼は「やったー!僕って凄い!」という気持ちだったのだと思います。

その時、彼が味わっていたのは、全能感や万能感だと私は思いました。子どもの頃、親と身体を使って遊んでもらって、自分が超人になって空を飛び、すごい世界を体感しているような記憶はないでしょうか。何かを学ぶことよりも、ただ夢中になって遊ぶことが、いかに人間の心身発達に影響を与えるか、彼が私に見せてくれました。夢中になって遊ぶことで、一つ壁を乗り越えた気がしたのです。

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分科会当日は以上のようなお話をした後、参加者の皆さまと身体を使ったエクササイズに取り組みました。そして「瞑想の研究をしています。瞑想や技術の上達をどのように感じるか、上達を評価する指標はあるでしょうか?」という会場からのご質問に各パネリストがお答えして、「身体知の実践」分科会は盛況のうちに終わりました。

最後に身体知が実践できる本を紹介します。

ぜひお近くの本屋さんで探してみてください。

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参考文献

『芋づる式に治そう!』栗本啓司+浅見淳子=著(花風社)

『自閉っ子の心身をラクにしよう!』栗本啓司=著(花風社)

『人間脳の根っこを育てる』栗本啓司=著(花風社)

『感覚過敏は治りますか?』栗本啓司=著(花風社)

『自傷・他害・パニックは防げますか?』廣木道心+栗本啓司+榎本澄雄=著(花風社)

『発達障害・脱支援道』廣木道心=著(花風社)

『元刑事が見た発達障害』榎本澄雄=著(花風社)

『逆転交渉術』クリス・ヴォス+タール・ラズ=著(早川書房)

『ミラーニューロンの発見』マルコ・イアコボーニ=著(早川書房)

『一緒にいてもひとり』カトリン・ベントリー=著(東京書籍)

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元刑事が支援現場で実践した

身体知と遵法教育の記録です。

読むだけで、

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『元刑事が見た発達障害真剣に共存を考える』榎本澄雄=(花風社)

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