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2019年に日本人と移民の対立を描いた短編小説

『刑事とミツバチ』第4話

· 小説,2019年,日本人,移民,対立

こんにちは!

榎本澄雄です。

新年快乐!

(あけましておめでとうございます!)

1月29日、水曜日。

今日は新月、旧正月です。

私が2019年11月末日

小説推理新人賞に応募した作品です。

https://fr.futabasha.co.jp/special/suiri_award/

不定期で全9話アップします。

どうぞお楽しみにお待ちください。

あらすじはこちら。

👇

未公開作品『刑事とミツバチ』あらすじ

2019年の元刑事が2030年の治安悪化を予測した短編警察小説​

https://www.kibiinc.co/blog/2024-10-2

第1話はこちらから。

👇

第1話「警察庁が内務省となって、三年が経った」

『刑事とミツバチ』2019年小説推理新人賞応募作品

https://www.kibiinc.co/blog/2024-10-13-2

第2話はこちらから。

👇

第2話「十百華はハンドルを握りながら、課長の話を思い出していた」

2019年に2030年の移民事件を予測した『刑事とミツバチ』

https://www.kibiinc.co/blog/2024-10-17

第3話はこちらから。

👇

『刑事とミツバチ』第3話「えっと、この辺ですよね?」

2019年に2030年の警察官不足を描写した短編小説

https://www.kibiinc.co/blog/2024-12-1

2019年に日本人と移民の対立を描いた短編小説

『刑事とミツバチ』第4話

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 男の後を追って、十百華は駐車場を進む。小石の混じったアスファルト。ところどころ、割れたり、凹んだり、補修されて盛り上がったりしている。

 

 男が急に立ち止まった。十百華は思わず顔を伏せた。上半身を捻って携帯電話を探す振りをする。口元を手で覆い、電話を掛ける仕草をした。

 

 男は立ち止まったまま、まだ動かない。もしかして、気付かれたのか?いっそ、このタイミングで声を掛けた方が良いのか?頭の中で色んな可能性が駆け巡る。心臓の激しい鼓動を感じた。

 

 「よし、声を掛けよう」と思ったその時。

 

 キュイン、キュイン。車のロックが解除される音がした。

 男は左手奥のワゴン車に近づいた。黒い窓に黒いカーテンが付いている。運転が荒いのか、黒いボディーには傷や凹みが目立った。

「あの、すみません!」

 十百華はたまらず声を掛けた。

 男は怪訝な顔で十百華を一瞥した。

 

「IDカード持ってますか?」

「何?」

 イントネーションは外国人だった。嗄れた声だ。十百華は車のフロントに回り込んで男の顔を見据えた。キャップのつばの下でグレーの瞳がカチャカチャと動いているように見えた。

 

「あ、警察です!」

 慌てて記章を探すが、出て来ない。男は鼻で笑って、車のドアに手を掛けた。

「危ないもの持ってないですかぁ」

 駐車場の入り口からようやく三千三郎が現れた。右手には警察手帳を掲げている。

 

 紺のスーツにサングラス。長髪にヒゲ。先の尖ったエナメルの靴。身長は180くらいあるだろうか。三千三郎の方がよほど危険人物に見える。

 

「警察?」

 三千三郎は答えず黙っている。酒が顔に出ないタイプなのだろうか。サングラスを外すと、目が爛々としていた。獲物を狙う狼のように。

 

「外国人は召使い。日本人は特権階級か?」

 流暢な日本語だ。よく職務質問されるのだろう。かなり苛立っている。

 

「いやいや……」

 三千三郎は不敵な笑みを浮かべていた。オーバーアクションに両手を広げ、困ったような素振りだ。

 

「身分証明書、お持ちですか?」

 三千三郎は男の背後から優しく語り掛けた。言葉遣いは丁寧だが、やってることは言いがかりだ。

 

 男は動揺している。車のドアに背を向けて、観念したように両手を頭上に挙げた。十百華が映画で観たことのあるボディーチェックを受ける格好だ。

 

 「気が済むで確認しろ」と言うことなのだろう。

 三千三郎は十百華に顎をしゃくった。女の十百華に男のボディーチェックをさせるのか……。十百華はポーチから白手袋を出そうとした。

「必要ない」

 三千三郎が言った。

 

「でも……」

 自分の指紋がついてしまう。禁制品や盗品が出て来たら、どうするのだろう。「あの警察官に仕込まれた」と言われないだろうか。十百華は心配したが、三千三郎は厳しい目付きでこちらを見ている。

 

 田園地帯だが、うどん屋や商店もあり、車の往来は少なくない。うどん屋の客や付近の住人が覗き込んで来る気配もあった。

 

 形だけやって、さっさと終わらそう。十百華は渋々、ボディーチェックを始めた。やったことがないので、空港の保安検査をイメージしてみた。正面から上着のポケット辺り、後ろに回って背中。少しかがんで、ベルトの辺りやズボンのポケットに触れてみた。慣れない手付きで、男の様子を気にする余裕もなかった。

「どうだ」

 十百華の隣に回り込んで、三千三郎が聞いた。ズボンのお尻に硬い膨らみを感じた。

 

「あの、これお財布ですか?」

「見ろよ」

 男が答えた。

 

 十百華は男の背後でかがんだまま、黒い財布を抜き取った。

 

 「あっ!」

 十百華が顔を上げると、男は地面を蹴って数メートル先にいた。隣の駐車場へ抜け、そのまま車道へと斜めに駆けて行く。三千三郎も走って男の後を追い掛ける。

 

「誰か!」

 尻餅をついた十百華は咄嗟に助けを求めた。立ち上がりながら、携帯電話を探す。片手で連絡先を探しながら、二人が走った方向を追い掛けた。

不定期で全9話アップします。

どうぞお楽しみにお待ちください。

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